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日本人はマグロ好きだ。とりわけ本マグロとも呼ばれるクロマグロの人気が高い。
日本や米国、中国、オーストラリアなど26カ国・地域が参加する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)で、太平洋クロマグロの漁獲枠を来年から従来の15%増とすることが決まった。
太平洋クロマグロは乱獲による絶滅の恐れがあるとして、漁獲量に年間の上限が設定されていたが、今回の増枠で日本の漁獲枠は4882トンから5614トンに増加した。
6年前に導入された漁獲規制の努力が功を奏し、国際的な管理下でクロマグロの資源が回復に向かい始めたことを評価したい。
成長すると体重約400キロにもなるクロマグロは、すしネタや刺し身など生食用に人気がある高級魚だ。漁獲枠の拡大は関係者の間で明るいニュースとなっている。市価の低下も期待される。
ただし、近年のマグロ類の消費のされ方に目を向けると、手放しで喜んでばかりはいられない課題が見えてくる。
まずは日本の魚食文化の衰退だ。周囲を海に囲まれたわが国には季節の流れの中で「旬」を迎える沿岸魚を上手においしく食する知恵があった。
それがマグロやサケへの偏りで変容を遂げた。その余波は沿岸漁業の不振にも影響し、日本の水産業の前途に影を落とすことになっている。沿岸や沖合の多様な海の幸の活用を図りたい。
大西洋クロマグロにも資源の回復傾向がうかがえるが、油断は禁物だ。マグロ類は栄養も豊富であるために世界的な健康食ブームの一翼を担う存在となっている。
国際会議による協議で資源の復調傾向が確認されたが、クロマグロの資源量は低水準を完全には脱していない。油断すればたちまち乱獲状態に後戻りしてしまう。参加国ごとの正確な漁獲量の報告が不可欠だ。関係各国は危機意識の持続性を保ちたい。
併せてマグロの食べ過ぎを改めることも必要だ。日本が世界一の消費国であることに批判の声があることを忘れてはならない。
マグロ人気が高まる一方で沿岸魚は次第に食卓から遠のいている。この対照的な消費動向に、家庭で魚を包丁でさばけなくなっていることが関係しているとすれば、これはゆゆしき問題だ。
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2021年12月19日付産経新聞【主張】を転載しています